見せかけの礼儀

世情が冷たくなり他者に対する無関心が嘆かれている一方、
特にサービス業では行き過ぎと思える礼儀正しさが横行している。
枚挙にはいとまが無い。

新幹線では車掌も販売員も車両に入る度、出る度に帽子を脱いでお辞儀をする。
デパートでは従業員が休憩所から販売フロアに出入りするときフロアに向かってお辞儀をする。
驚くのは売り場の一隅にある喫茶店に売り場フロアから出入りする店員が喫茶店に向かい
深々とお辞儀をすることである。
さらには購入した商品をカウンター越しに客に渡すのは失礼として客の横に回り、
しかも売り場の区画外までついて来て恭しく差し出し、客を見送る。
立ち去った車に深々と頭を下げるガソリンスタンドの店員と同じである。
一方病院では患者を呼ぶ際に「様」をつけた。納まりが悪く揺り戻している。

先日新幹線のグリーン車で発券をお願いしたとき、
専従の女性車掌は揺れる車内でスカートの裾を気にしながら通路に片膝をついて発券した。
ちょっと格好をした喫茶店などで店員がフロアに片膝をついてコーヒーを恭しく注ぐ、あれである。
案の定彼女はよろけて通路に手を付いた。
立って書いてくださいと言ったが、彼女は決まりだからとそのままの姿勢で発券し終わった。

このような行き過ぎとも思える礼儀正しさは
外食店で若い店員をしつけるためのマニュアル化に端を発するとも言われる。
とにかく形だけでも整えようというのだ。
形から入るのは日本文化の特徴で、形ができれば魂はやがて宿るとの考えであろうが、
現今は魂はさて置いて形の追求のみが先鋭化している。

あまりにも礼儀正しいとあきれが先に立ち、気の毒にもなり、また不愉快にさえなる。
もう少し成熟した親しみのある礼儀があっていいのではないか。

※2012年7月7日付記事 (新井 達潤 先生)