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最小侵襲手術(MIS)について

最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery : MIS)
―人工関節の手術後1~2週間で退院へ―

医療の進歩は目覚しく、最近どの分野でも最小侵襲手術という言葉がよく聞かれます。
つまり同じ治療成績が得られるのなら、傷は小さい方が良いし、
切られたり取り除かれたりする組織は少ないに越したことは無い、という考えに基づいています。

こうした手術にはおなかを大きく切らない腹腔鏡や膀胱鏡による手術や関節鏡などを使った内視鏡視下の
手術が有名ですが、人工関節の分野でも、同じような考え方で手術が行われるようになってきました。
と言っても勿論内視鏡を使って人工関節を入れるわけではありません。

では、どのような部分が最小侵襲なのかと言うと、筋肉や腱など関節を動かすために必要な組織を出来る
かぎり傷つけないようにして手術を行うということなのです。

>MIS-人工関節センター

 

股関節の場合

従来行われていた普通の手術

1677具体的に言いますと、人工股関節の場合、以前は皮膚を20cmほど切開して
手術を始め、筋肉を大きく切って関節やそのそばの骨を出し、関節包(関節の袋)
を切って関節をはずし、骨を大きく露出して手術を行っていました。

このような方法で手術をすると関節を動かす筋肉や腱などの組織が大きく傷ついて
いるために、手術が終わってもしばらくは関節を動かすことができず、また痛みも
強いために、術後のリハビリが大幅に遅れることになっていました。

さらに以前には手術方法や手術器械そのものが今ほど進歩していなかったこともあって手術後は3週間ほどベッド上で寝たきりのままいなければいけないのが一般的でした。
そのために、人工股関節の手術をしたあとは退院まで2ヶ月から3ヶ月ほどかかってしまうこともありました。

現在は、手術器械やリハビリ自体も進歩したために普通に手術をしても退院まで1ヶ月ほどで
十分なことが殆どです。

しかし、ここ数年術後の痛みを軽減し、さらによりいっそうリハビリを促進するために、
筋肉や腱の損傷を最小限に抑える工夫を行う施設も増えてきています。

 

最小侵襲手術(MIS):股関節の場合

最小侵襲手術では前述したように出来る限り関節のそばの筋肉や腱などの組織を損傷しないように
手術を行います。

ですから、今までは視野を得るために切り取っていた組織への切開方法について一から考え直し、
筋肉と筋肉の隙間から進入したり、あるいはやむを得ず筋肉を切開する場合でも、
可能な限りそれを傷めないように新しく工夫された道具や新たに考案された手術方法を使用します。

そのような努力をすることで、従来は20cmほどの切開をくわえて行っていた手術を、
無理なく10cm以下程度の切開で完了することが出来るようになってきました。
骨盤側の骨の変形が少ないタイプの人では翌日から歩行を開始し、早い人では2週間程度で退院すること
も可能となってきています。

技術習得のための研修体制

1677勿論、最新の手術を行うためには技術研修も欠かせません。
倉敷成人病センター整形外科の医師はその為に
海外で行われている死体標本を使って行う人工関節を入れる
手術のトレーニング
に参加し、技術の習得に努めています。

最小侵襲手術では従来の手術よりも視野が極端に狭いために、
見える範囲が限定されており、正しい手技を理解し訓練を行っ
ておかないと手術の失敗につながることになります。
その為には死体標本を使用したトレーニングは極めて有効であ
ると考えています。

 

膝関節の場合

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最小侵襲手術(MIS):膝関節の場合

膝のMISは難しい

膝関節の場合、股関節と比べて最小侵襲手術を行うのは難しいと考えられていました。
膝関節の手術は挿入する人工関節自体が大きいので、筋肉を傷つけないで手術を行う
のが困難だからです。

悪いところだけを入れ替える片側だけの人工関節

しかし、この困難な分野も次第に進歩しつつあります。
この分野でまず進歩したのは、膝の内側だけが悪い人に行う片側だけの人工関節でした。
日本人の膝では特に内側だけが悪い人が多く、こういう人には従来から骨切り術と
言われる手術方法が取られていました。

骨切り術は良い手術方法ですが、手術で切った骨が再び引っ付く(骨癒合)ために3ヶ月ほどかかるなど
リハビリテーションに長い期間が必要だったり、痛みが十分に取れなかったりすることもありました。
また痛みが少なくなる場合でもその効果が長続きしないこともよくありました。
さらに手術の効果があまり無くなって人工膝関節に入れ替えをしなければいけなくなった時には
その手術がやりにくくなるといった困った事態も起こります。

一方片側だけの人工膝関節は、切開も5.6センチと小さいうえに、筋肉への損傷が無いので手術翌日から
歩くことが出来ますし、一週間程度で退院可能となる患者さんもたくさんおられます。

初めて私がこの手術を行った患者さんは82歳でしたが、手術後10日で退院しました。
術後も趣味で行うテニスのダブルス程度の活動性は得られるとされています。
さらに片側だけの人工関節は、将来全人工膝関節置換術への入れ替えをしなければいけなくなった場合に、
その機種にもよりますが、骨切り術に比べてより容易であるとされています。

【従来の方法】全人工膝関節置換術の場合

さて、では内側も外側も入れ替えてしまういわゆる全人工膝関節置換術はどうでしょうか?
この分野でも、近年著しい進歩が見られています。

以前は股関節と同様に20cmほど膝の前面を切って筋肉も大きく切り裂いて手術を行っていました
から、手術後膝の痛みも強くなかなか筋力も回復しませんでした。これは当然手術後のリハビリに
も影響します。

現在ではリハビリが早くから行われるようになりましたが、従来どおりの手術を行う場合、
やはり1ヶ月程度の入院が必要になります。

筋肉を可能な限り切らない人工膝関節

全人工膝関節置換術についてもここ数年最小侵襲手術が行われるようになってきました。
これは、股関節の場合と同じように筋肉などへの侵襲を最小限に抑える手術であり、
8cm~12cm程の傷で、人工関節を入れる手術です。

この手術を行うと術後の回復は非常に早く、倉敷成人病センターの場合、半数以上の患者さんが
手術当日のうちに手術された足を挙上することができるようになりますし、
歩く練習が開始されるのは平均手術後2日目と非常に早くなっています。

中には手術当日にベッドサイドで立って足踏みをすることが出来た人もいます。
従って退院も早く、術後2週間から3週間程度で退院が可能になります。

 

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筋肉をまったく切らない人工膝関節

さらに究極的には筋肉をまったく切らないで人工膝関節を
挿入するテクニックも存在します。
この手術は7cm~10cm程の切開を行い、
特殊な手術器械を使って行われます。

切開が小さい上に、筋肉をまったく切っていないものなので
手術操作をするための傷口が小さく、
当然手術している場所が見えにくくなります。

普通手術を習得するには上手な技術を持つ術者の手術に
助手として参加し、実際の手術を体験することで効率よく
技術を学ぶことが出来るのですが、
この手術では術者以外には傷の中が見えないことも多く、
助手として参加したからといって必ずしも技術が習得できる
とは限りません。

従って、このような技術を習得するには実際の患者さん以外での修練が必ず必要になってきます。

私たちはその為に、股関節と同様海外での死体標本を使用した研修に参加し、
正しいテクニックを身に着けてきています。

このような方法で手術を行った患者さんは極めて回復が早く、
術後3日ほどで階段の昇り降りが行える人もおりますし、術後1~2週での退院が可能になります。

ただ、この手術はあまりにも変形が強い場合や、著しい肥満のある人などでは実施することが
困難となります。

筋肉をまったく切らない手術を行った翌日のリウマチ患者さん

手術翌日はまだまだ傷が痛むのが普通だと思われていますが、この患者さんは痛み止めを
まったく使っていないにも関わらず自分の力で下肢を上げることが出来るし、
膝を曲げることも出来ます。

このようなことは、筋力が十分に保たれ、かつ、術後の痛みが少ないからこそ可能なことであり、
従来の人工膝関節手術の術後では手術翌日のような超早期には殆ど考えられなかったことです。

またMISを行う施設は増えてきていますが、関節リウマチの患者さんに筋肉をまったく切らない
人工膝関節の手術を行っている施設は、まだ殆ど無いと思います。

 

リウマチ患者さんの人工膝関節

従来、最小侵襲手術はリウマチなどの膠原病の患者さんには不向きと考えられていました。
ステロイドの長期投与により皮膚が弱くなっていたり、高度の骨粗鬆症のために骨が脆い事から最小侵襲手術が
困難であると思われていたのです。

しかし、当院ではリウマチ膠原病センターが存在してリウマチ患者さんの手術は多いので、
この問題を避けては通れません。

実際のところ、条件の悪い人では筋肉をまったく切らない人工膝関節手術を行うのは困難です。
しかし最近ではかなり骨粗鬆症が強い場合や、皮膚が弱い場合、あるいは変形、骨欠損が強い場合でも
12cm程の切開を行えば手術可能であることが多く、当然筋肉への損傷も少なくして手術を行うので
術後の回復は非常に速やかです。

また、リウマチ膠原病センターや内科の存在の元、レミケードなどの生物学的製剤を使用している患者さんへの手術、
メソトレキセートを使用中の患者さんに対する手術など、手術に際して注意を要する患者さんに対する知識や技術の
蓄積などもなされてきており、リウマチ患者さんにも安心して手術を受けてもらえる環境がそろってきています。