しゃし斜視
斜視とは右目と左目の視線が違う方向を向いている状態です。人間は、2つの目が協働してものを見ることで、両眼視と呼ばれる精密な立体視で奥行きや深さを知覚することができます。斜視の状態だと両目の視線がずれているので、深さや奥行きの感覚が低下します。自覚的な症状としては、①両眼だと見えにくく片眼を閉じた方が見やすいと感じる、あるいは②ものが上下や左右に2つに見えること（複視）などが生じます。長期間斜視の状態が続いていると片方の目でみる癖がついてしまい、このような症状を自覚しないこともあります。
斜視の種類
斜視は生まれつきの先天性のものと、後天性のものがあります。
先天性の内斜視
両眼視は0～3歳の時期に発達するので、その時期に斜視があると両眼視機能や視力の発達に悪影響を及ぼします。先天性の内斜視はその背景に遠視があることが多いので、調節筋を麻痺させる目薬を使う屈折検査を行い、ある程度遠視があれば眼鏡を常にかける必要があります。眼鏡だけで斜視が矯正される調節性内斜視の場合は、眼鏡をそのまま装用し続ける治療が中心となります。眼鏡をかけても斜視が残る場合は、両眼視の獲得を目的に手術を検討します。
先天性の外斜視
よく見られるのは間欠性外斜視です。間欠性外斜視は、視線がまっすぐの時と外斜視になっている時の2つの状態をあわせもっています。子どもの場合は、明るい戸外での片目つむり、寝起きや夕方などに視線のずれが目立つなどの症状がよく見られます。間欠性外斜視は、①外見的に気になる、②眼が疲れやすい、③両眼視機能の低下などの症状があれば、手術を検討します。
後天性の急性に発症する斜視
後天性で急性におこる斜視のなかにはスマートフォン、パソコン、ゲーム機などのデジタル機器を長時間見ることが一因でおこる内斜視があり、スマホ斜視とも呼ばれます。スマホ斜視は視聴時間を減らすことで軽快したとの報告もありますが、内斜視が固定してしまった場合は手術が必要になることがあります。
デジタル機器が原因の斜視以外にも、急性に斜視が生じることがあります。突然複視などの症状が現れたときは、頭や全身に異常が隠れている可能性があるので、早めに頭部の画像診断（MRI、CT）を始めとした原因の精査が大切です。MRI等で異常がないときは半年以内に自然に治癒することもあるので、プリズム膜などで対応しながら経過を見ます。最終的に斜視が残ればプリズム眼鏡、あるいは斜視手術を検討します。
後天性の比較的緩徐に発症する斜視
成人では、潜在的にあった斜視が年齢とともに顕性化して複視を自覚するようになることがあります。また加齢の影響で斜視が出てくることもあります。その場合もプリズム膜や斜視手術で対応します。そのほかにも、上下にずれる上下斜視、上斜筋麻痺などさまざまな斜視があります。
斜視の治療
斜視の種類や程度、発症時期によって治療方針は異なりますが、まずはプリズム膜や眼鏡など手術以外の方法で矯正が可能かどうかを検討します。プリズム膜や眼鏡では矯正が困難な斜視に対しては手術による治療が必要になることがあります。
斜視の手術
斜視の手術は眼のまわりについている外眼筋を短くしたり、後ろに移動させたりして眼球を正しい方向に戻します。主として局所麻酔での手術が可能な成人患者さんを対象としておりますが、小児の患者さんでも可能な限り対応したいと考えております（手術の際は全身麻酔が必要となります）。
斜視手術の目的は視線のずれを治すことで、①複視を改善させる、②深さや奥行きの感覚を改善させる、③整容上の問題を改善させる、ことです。斜視による複視の自覚や、整容上の問題を抱えている患者さんの悩みを少しでも解消できればと考えております。