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りょくないしょう緑内障

緑内障は網膜に写った映像を脳に伝える視神経が少しずつ障害されていくことで、視機能が低下する疾患です。緑内障の自覚症状としては、見えない場所(暗点)が出現する、あるいは見える範囲が狭くなる(視野狭窄)などの症状が一般的に知られています。ここで強調しないといけないのは、緑内障の視野異常の特徴は黒くはっきりと暗点を自覚するのではなく「透けて見える」「霞んで見える」「まだらに見える」「グレーに見える」等と表現されるように、見えない部分が脳によって補完されるために患者さん自身が気づきにくいという点にあります。

緑内障による視野障害の進行

日本における中途失明の原因

●出典:Morizane Yuki, Morimoto Noriko, et al Jpn J Ophthalmol. 2019

そのため、検診などで初期の段階で偶然発見される場合を除いて、患者さん自身が自覚症状を訴えて受診した時には既に病期がかなり進行してしまっていることをしばしば経験します。
緑内障は高齢者になるほど多い疾患です。近年では、我が国の高齢化が進むとともに緑内障が失明原因の1位となり、社会的にも大きな問題になっています。40歳以上の日本人の5%もの人口が緑内障の有病者であると考えられていますが、医師による診断、治療を受けている割合はその内のわずか10%に過ぎません。多くの緑内障患者が自覚症状のないまま潜在していることになります。
 緑内障によって一度進行してしまった障害はもとに戻ることはありませんので、早期発見、早期治療が極めて大切です。

緑内障の分類(種類)



開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障

緑内障にはさまざまな種類がありますが、眼の中を循環している房水という水が眼外へと流出する出口の部分(隅角線維柱帯)の形態によって、開放隅角型の緑内障と閉塞隅角型の緑内障の2種類に大別されます。
また、緑内障の原因が主として加齢や遺伝的素因によると考えられるものを原発緑内障、他に誘引となる疾患(糖尿病等)や薬物(ステロイド等)が原因となって発症するものを続発緑内障といいます。

(広義)原発開放隅角緑内障(げんぱつかいほうぐうかくりょくないしょう)

隅角の形態が正常開放隅角のタイプで、無治療時の眼圧が高いタイプ(狭義の原発開放隅角緑内障 primary open angle glaucoma: POAG)と無治療時眼圧が正常範囲のタイプ(正常眼圧緑内障 normal tension glaucoma: NTG)があります。若年者には少なく、高齢になるとともに徐々に増えていきます。慢性にゆっくりと経過します。

原発閉塞隅角緑内障 原発閉塞隅角症(げんぱつへいそくぐうかくりょくないしょう)

遺伝的背景や加齢により隅角が閉塞し、眼圧の上昇をきたすことによって緑内障を発症しているものを原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma: PACG)といいます。いわゆる緑内障発作といわれる状態もこの病態の一つです。その前段階として眼圧は高値であるもののまだ緑内障に至っていない状態のことを原発閉塞隅角症(primary angle closure: PAC)といい、将来緑内障に進行する危険性があるため注意が必要な病態です。

落屑緑内障(らくせつりょくないしょう)

房水が排出される隅角線維柱帯という部位にふけ様の物質(落屑物質)が沈着し、房水の流出抵抗が上昇することで生じる緑内障です。進行速度が早いという特徴があります。

血管新生緑内障(けっかんしんせいりょくないしょう)

糖尿病や網膜中心静脈閉塞症などの疾患がもととなり、隅角に本来存在していない新生血管が生じることで眼圧が上昇して緑内障になります。できるだけ早期に治療しないと重篤な視機能障害きたし、最悪の場合失明する可能性がある病態です。

ぶどう膜炎続発緑内障(ぶどうまくえんぞくはつりょくないしょう)

ぶどう膜炎による炎症が原因で房水の流れが阻害され、眼圧が上昇して緑内障を発症します。まずは原疾患の治療を行なっていきます。

ステロイド緑内障

点眼薬や内服のほか、皮膚に用いられるステロイド剤の副作用として、眼圧上昇をきたす患者さんがいます。殆どの場合ステロイドを減量したり中止することで眼圧が低下しますが、中止しても状態が改善しない場合は治療が必要になります。

緑内障の治療

緑内障治療で最も大切なこと

緑内障の治療で一番大切なのは早期発見、早期治療です。緑内障が末期まで進んでしまうと、患者さんの視覚の質は極端に低下してしまい、生活に支障をきたします。したがって、なるべく早い段階で治療を開始し、視野障害を進行させないようにすることが大切です。緑内障がかなり進行してしまった段階で発見された場合も、もうだめだと悲観することはありません。その後の治療をしっかり行なっていくことで緑内障の進行速度を十分抑えることができれば、生活の質を極力落とさずに維持することが可能です。

眼圧下降が最も確実な治療法



●出典:Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group
Am J Ophthalmol. 1998

現在、緑内障に対する唯一確実な治療法は眼圧を下降させることです。眼圧下降以外の他の治療法(血流改善、神経保護治療、サプリメント等)は補完的な意味はあるものの、現在のところ明らかなエビデンスはありません。
 緑内障と診断されたらすぐに治療に入るのではなく、無治療時の眼圧(ベースライン眼圧)を把握したのち、そこから20~30%低い眼圧を目標眼圧として設定します。この20~30%眼圧下降というのは必ずしも達成が容易とは言えない目標値なのですが、実際にこのレベルまで眼圧を下降することができれば、緑内障の進行が停止、あるいはかなり緩徐になることがわかっています。この目標を達成するために、薬物治療、レーザー治療、手術治療のいずれか単独、あるいは組み合わせて治療を行います。その際、それぞれの治療方法の効果と副作用を考慮し、患者さんの病期・病型に応じて適切な治療法を選択するようにします。

薬物治療

緑内障治療の基本は点眼治療です。さまざまな種類の点眼薬があり、最初は単剤による治療を開始しますが、単剤では効果が不十分な場合は複数剤を併用します。薬剤の選択肢ですが、まずプロスタグランジン(PG)関連薬を検討します。PG関連薬は眼圧下降効果が高く、全身的な副作用が少ないのが特長です。次の選択肢としては炭酸脱水酵素阻害薬や交感神経α2刺激剤、ROCK阻害薬の中から選ぶことが多いです。特定の薬剤にアレルギー症状を示す患者さんには、アレルギーを起こさない別の薬剤を使用する必要があります。近年の傾向として、複数の点眼薬を併せた配合点眼薬を処方する機会が増えています。配合点眼薬は複数剤を使用している患者さんが忘れることなくきちっと点眼を継続する上で有用です。

レーザー治療

 レーザー治療は薬物療法だけでは効果不十分な症例に対し薬物治療の代替として、または薬物治療に追加して行います。レーザー治療には複数の種類があります。

①選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT):
SLTはレーザーを線維柱帯に照射し房水流出を促進する手術です。点眼治療だけでは効果が不十分で、観血的手術にはまだ至らないときに追加的に行います。

②レーザー虹彩切開術(LI):
LIは虹彩にレーザー光線を照射し房水の通過するバイパスを作る手術で、閉塞隅角型の緑内障に対して行います。

③毛様体光凝固術:
毛様体光凝固術は房水を産生する組織(毛様体)を部分的にレーザー光線で刺激して房水産生を低下させ、眼圧を下降させる治療法です。従来は施行後の眼圧の調整が難しいため他の治療法が使えない場合の最終手段と捉えられていましたが、レーザーのon、offを短時間で切り替える方式(マイクロパルス毛様体光凝固術)が登場してからは、比較的安全に施行できるようになりました。

手術治療

観血的手術は他の治療法によっても十分な眼圧下降が得られない場合や指示した点眼の施行が困難な場合、あるいは副作用などによって適切な治療が行えない場合に適応となります。また、初診時すでに緑内障の末期に至っており、失明する恐れが高い場合は比較的早い段階で観血的手術が必要になることがあります。
現在、緑内障手術は多くの種類や変法がありますが、大きく分類すると2種類の手術方法があります。

図6 トラべクトロミー(線維柱帯切開術)
流出路再建術(トラベクロトミー)は房水の流出抵抗に最も影響している線維柱帯を切開する手術で、それより末梢の流出路はそのまま利用する方法です。眼圧下降効果は比較的マイルドですが、合併症が少ないのが利点です。そのため、初期から中期の緑内障患者に初回手術として行われることが多いです。一方、末期の緑内障患者は目標眼圧をかなり低く設定する必要があるので、眼外に房水のバイパス経路を構築する濾過手術(トラベクレクトミー)が必要になります。トラベクレクトミーの対象は、以前にトラベクロトミーを施行されたあと眼圧が再び上昇してきた等で緑内障末期での再手術の方が多いです。トラベクレクトミーは成功すれば眼圧下降効果は非常に大きいですが、その反面期待される手術効果の予測が難しい術式でもあります。その理由は、術後の創傷治癒に個人差があるため、手術部位の瘢痕形成でバイパス路が閉塞してしまう方がどうしても存在するからです。トラベクレクトミーは手技も比較的難しく、術後のメンテナンスにも細心の注意を払う必要があるとてもデリケートな手術です。


近年、本邦で新しい緑内障術式としての緑内障チューブシャント手術が認可されました。その後、徐々に施行数が増えてきています。アーメド緑内障バルブは図のようにプレート部分とそこから伸びる長いチューブから構成されていて、これを使用した手術はチューブシャント手術の1つです。眼圧が上昇してくると房水がチューブを流れ、眼球後方のプレートから排出されて眼圧が下降します。チューブの内径は一定ですので、創傷治癒過程でチューブが閉塞してしまうことは通常ありません。そのため術後の眼圧はとても安定しています(そのかわり術後の眼圧はトラベクレクトミー成功例よりは若干高めです)。緑内障チューブシャント手術は国内での歴史が比較的浅いため、現時点の適応は難治性緑内障に限定されていますが、今後適応が拡大することが予想されています。