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かれいおうはんへんせい加齢黄斑変性

加齢黄斑変性には「萎縮型(いしゅくがた)」と「滲出型(しんしゅつがた)」の2種類に分類され、それぞれ病態が異なります 。



「萎縮型加齢黄斑変性」

「萎縮型加齢黄斑変性」は黄斑部の網膜が徐々に萎縮し視機能が低下していく病気で、現在のところ有効な治療法はありません。しかし、日本人を含むアジア人には比較的少ないタイプです。

萎縮型加齢黄斑変性



「滲出型加齢黄斑変性」

「滲出型加齢黄斑変性」は日本人に多いタイプで、網膜の後ろにある脈絡膜という部位から病的な血管(脈絡膜新生血管)が生じて網膜下に成長しながら拡大していきます。脈絡膜新生血管から漏れ出た血液の成分や血管の破綻で生じた出血、また繊維血管組織などが原因で、「ものが歪んで見える」「中心視野が見えにくい」「視力が低下する」などの症状を生じます。放置してしまい、進行すると見たいところが完全に黒く見えなくなる中心暗点に至ります。診断には、細隙灯顕微鏡、光干渉断層計(OCT)、光干渉断層血管造影(OCTA)、蛍光眼底造影検査などを用います。
滲出型加齢黄斑変性はさらにいくつかのサブタイプに分かれます。

滲出型加齢黄斑変性のサブタイプ

①典型加齢黄斑変性(typical AMD)

脈絡膜から発生した新生血管が、広がりながら網膜下に成長して繊維血管膜の形成や、血管からの漏出、出血を生じます。

02典型加齢黄斑変性


②ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)

特異的な脈絡膜の異常血管網とポリープ状病巣を生じます。細隙灯検査ではポリープ状病巣が橙赤色病変として見られます。OCTやOCTA、造影検査では異常血管網やポリープ状病巣を確認できます。日本人に多く、滲出型加齢黄斑変性の約半数を占めます。

03ポリープ状脈絡膜血管症


③網膜内血管腫状増殖(RAP)

網膜内から発生した新生血管が網膜内や網膜下に成長しながら進展し、網膜の出血や浮腫、荒廃をきたします。高齢の女性に多く、高率に両眼の発症に至ります。滲出型加齢黄斑変性の3.9~4.5%と頻度は多くはありませんが、早期に治療しないと網膜の荒廃による著しい視力低下をきたします。

04網膜内血管腫状増殖


また、滲出型加齢黄斑変性の範疇に含められていた中で、そもそもの発症原因が加齢による網膜の変化ではなく、脈絡膜循環のうっ滞を原因とする疾患群として、パキコロイド関連疾患という疾患概念が提唱され、2013年頃から診断されるようになりました。


パキコロイド関連疾患

「パキコロイド」とは「肥厚した脈絡膜」という意味です。
パキコロイド関連疾患には①パキコロイド網膜色素上皮症(PPE)、②中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)、③パキコロイド新生血管症(PNV)、④パキコロイドを伴ったポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などがあります。これらの中で、脈絡膜新生血管を伴う疾患が③と④です。

①パキコロイド色素上皮症(PPE)

網膜色素上皮細胞層の異常所見を認めますが、脈絡膜新生血管の形成はありません。通常は無症状のため眼科受診時に偶然見つかることがありますが、治療の適応はありません。

05パキコロイド色素上皮症


②中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)(CSC)

この病態はパキコロイドによるものですが、加齢黄斑変性の疾患には含めません。脆弱になった網膜色素上皮細胞を通じて脈絡膜側から網膜下への水の貯留が生じます。治療は循環改善剤の内服やレーザー光凝固による網膜色素上皮細胞の修復促進が主となります。



③パキコロイド新生血管(PNV)

PPEやCSCの変化に加えて脈絡膜新生血管を伴った状態です。こうなると滲出型加齢黄斑変性に類似した病態を呈します。今まで本邦で滲出型加齢黄斑変性と診断されてきた多くにPNVが含まれています。

06パキコロイド新生血管


④パキコロイドを伴ったポリープ状脈絡膜血管症(PCV)

PNVにポリープ状病巣を伴った病態ですが、前述した滲出型加齢黄斑変性のサブタイプのポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の大半がパキコロイドを伴っているということが分かっています。

07パキコロイドを伴ったポリープ状脈絡膜血管症


治療方法

滲出型加齢黄斑変性やパキコロイド新生血管(PNV・PCV)に対する現在の治療の主体は、病的な血管(脈絡膜新生血管)の発生・発育に密接に関わっているサイトカインである血管内皮増殖因子(VEGF)を抑える薬剤を眼内に注射する方法(抗VEGF療法)です。他に光線力学療法(PDT)という治療法もありますが、単独で行われることは少なく、抗VEGF療法と併用して行う事が多いです。

抗VEGF療法
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor-VEGF-)は血管内皮の分裂を促進させるサイトカインですが、病的血管新生や血管透過性亢進・炎症に強く関与しています。眼内においてこのVEGFを阻害することによって、脈絡膜新生血管の活動性を抑えます。この抗VEGF療法は、一度注射をして効果が永続するものではなく、病気の活動性を抑え続けるには定期的に注射を打ち続ける必要があります。現在では導入治療から維持療法へと注射の間隔を徐々に延長していくTreat And Extend療法が主流ですが、疾患のタイプや施設によって治療方法は若干異なっています。
光線力学療法(PDT

光に感受性を持った薬剤を点滴し、異常な血管(脈絡膜新生血管)やうっ滞した血管に集積させた上で、感受性の高い波長の光を眼内に照射することでこの薬剤を活性化し、脈絡膜新生血管を閉塞させたり、うっ滞した脈絡膜血管を間引いたりする治療法です。強い炎症に伴う合併症などを生じることがあるため、現在では単独で使用する機会は減り、使用する場合にも効果を調節したReduced-fluence PDT(RF-PDT)や、抗VEGF療法との併用でおこなったりします。