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びょうてききんし病的近視

病的近視

近視が強い目は正常眼に比べて目の長さ(眼軸)が長く眼球が大きいため、眼内の組織は伸ばされることで全体的に薄くなります。網膜やその後ろにある脈絡膜も薄い状態になります。これが進行していくと、びまん性の網膜萎縮を来すことがあり視機能に影響が出てくることがあります。さらに、こういった萎縮の変化に加えて、以下にあげるようなさまざまな疾患(①近視性黄斑部新生血管、②黄斑分離、③分層黄斑円孔、④黄斑円孔、⑤黄斑円孔網膜剥離)を生じることがあります。一般的な黄斑疾患が中高年に多いのと異なり、早い方では 30 歳代という若い方にも生じる疾患です。

きんしせいおうはんぶしんせいけっかん(きんしせいみゃくりゃくまくしんせいけっかん)近視性黄斑部新生血管(近視性脈絡膜新生血管)

黄斑の網膜下に脈絡膜新生血管などの病的な新生血管が生じる疾患です。新生血管からの出血や滲出物が網膜に溜まることで、ゆがみや視力低下といった症状が出て、持続すると視細胞の障害により不可逆性の視力低下を生じます。網膜光干渉断層検査 (OCT) や光干渉断層血管撮影 (OCTA)、蛍光眼底造影検査により診断します。

治療は新生血管を瘢痕化させるために抗 VEGF(血管内皮増殖因子)薬硝子体注射を行います。硝子体注射は複数回になることもあります。治療を行ってもゆがみが残る場合もありますが、視力を維持するには極力早い段階で治療する必要があります。

近視性黄斑部新生血管 近視性黄斑部新生血管

おうはんぶんり 黄斑分離

黄斑分離

近視が強い場合、通常に比べて目の長さ(眼軸)が長くなります。その際、網膜は引き伸ばされながら眼球に沿っているのですが、それに耐えきれなくなり、さけるチーズのように黄斑部の網膜が分離した状態が黄斑分離です。黄斑分離の程度が強くなると視力低下やゆがみなどの症状が出ることがあります。進行すると、黄斑の網膜に孔があく近視性黄斑円孔、さらにはその孔から網膜剥離が広がっていく黄斑円孔網膜剥離に進展していきます。

そのため、黄斑分離の状態で視機能に障害が出てきた場合には硝子体手術を考慮します。手術後は1年程度かけて網膜の形状がゆっくりと正常に戻っていきます。手術を行うことで、黄斑円孔、黄斑円孔網膜剥離への進展を予防できます。

ぶんそうおうはんえんこう 分層黄斑円孔

病的近視

黄斑の中心にある中心窩と呼ばれる部分の形態が虫食い状に菲薄化し、それに伴い視力低下やゆがみの症状などが出てきます。網膜の表面に形成された膜(黄斑上膜)による牽引が原因となることもあります。中高年に生じることのある分層黄斑円孔よりも、強度近視の方はより若年(30歳代~)で発症することがあります。

治療は硝子体手術を行います。黄斑周囲に中心窩由来と考えられる黄色膜用組織が存在することが殆どで、これを中心窩に戻して形態を改善することで病態の進行を留めます。また同時に、術前の程度にもよりますが、多くの方で視機能の改善がみられます。

おうはんえんこう 黄斑円孔

網膜の中心の黄斑と呼ばれる部分に孔が開くことで、視野の中心部が歪んで見え、視力が低下します。強度近視の方はそうでない方に比べて、より若年から発症することがあります。通常の黄斑円孔の機序、形態で生じるものと、近視性の黄斑分離が進行して生じるものとがあります。後者の場合は、さらに重篤な疾患である黄斑円孔網膜剥離に移行していきやすいです。

いずれも治療法としては硝子体手術を行います。円孔周囲の網膜の最も表面の膜(内境界膜)を剥がすことで網膜の可動性を高め、手術終了時には眼内をガスに置換します。術後は下向きの姿勢を取ることで、円孔の閉鎖、修復を促します。強度近視の場合は、通常の黄斑円孔より円孔が閉じにくいため、内境界膜の一部を孔の上に被せる術式の変法(内境界膜翻転法)などの工夫をする場合があります。通常、円孔を閉鎖させることで視力や歪みは改善しますが、円孔を生じる前の見え方に完全に戻るわけではありません。

黄斑円孔

おうはんえんこうもうまくはくり 黄斑円孔網膜剥離

網膜の中心部である黄斑に孔があき(黄斑円孔)、その孔から眼内液が網膜下に入ることで生じる網膜剥離です。近視の強い目に起こることが殆どです。網膜剥離が生じた範囲(視野の中央部)の視力が低下します。放置すると、剥離範囲の網膜の機能がなくなることで中心暗転をきたしますし、網膜剥離が広がると失明に至ります。

治療には硝子体手術が必要です。従来は網膜を復位させることはできても黄斑円孔の閉鎖を得ることが困難な疾患でした。現在では、術式の変法や改良によって円孔の閉鎖も得られるようになってきています。当院では 2015 年に報告された新たな術式をもちいることで、円孔の閉鎖と網膜の復位の非常に良好な成績が得られています。手術終了時には眼内をガスに置換して、術後に下向きの姿勢をとってもらいます。術後の視機能には、網膜剥離の期間やベースにあった近視による黄斑萎縮の程度が強く影響します。

黄斑円孔網膜剥離