乳がんの外科的治療(手術術式)
乳がんの手術方法は、乳房全体を外科手術によって取り除く「乳房切除術」と、しこりを含めた乳房の一部だけを切除してふくらみを残す「乳房温存術」に大別することができます。
日本乳癌学会のガイドラインでは乳房温存術の適応は原則3cm以下です。腫瘍が完全に取り切れて見栄え良く乳房を残せると判断されれば、大きさが3cmを超えても乳房温存術の対象になる場合もあります。
腫瘍の大きさだけではなく、
- 二つ以上のがんのしこりが、同じ乳房の離れた場所にある
- 乳がんが広範囲に広がっている(マンモグラフィで広範囲に微細石灰化がある)
といった場合も、乳房温存術ではなく乳房切除術が行われます。もちろん、乳房温存術の対象と医師が判断しても、患者さん自ら乳房切除術を希望することもできます。
また、乳房温存術を行うには腫瘍が大きすぎる場合でも、手術前に薬物療法(術前薬物療法)を受けて腫瘍が小さくなれば乳房温存術が可能となる場合があります。術前薬物療法については、主治医にご相談ください。
当院では現在、乳がん手術のうち70%以上が乳房温存術となっています。
1.乳房切除術(胸筋温存乳房切除術)
この手術法は、わが国における乳がん手術の標準的な方法の一つです。
乳房全部(皮膚の一部を含む)を切除しますが、大胸筋や小胸筋を残して、必要に応じてセンチネルリンパ節生検、あるいは腋窩リンパ節郭清を行う方法です。
乳房を切除するため術後胸のふくらみはなくなりますが、胸の筋肉は残すので皮膚の下に肋骨が浮き出たりすることはなく、胸の前や脇の下がへこむことはありません。
脇下のリンパ節を切除した場合には、痛みやつっぱり感、引きつれる感じのために手術を受けた側の腕が動かしづらくなることがあります。術後早期からの十分なリハビリテーションが必要です。
乳房切除を受ける場合には、自分の筋肉や人工物を用いた乳房再建術を後日改めて行うことも、一つの選択肢になります。
2.乳房温存手術(乳房部分切除術)
乳頭・乳輪を温存し、乳房のしこりを含めた一部分を切除します。乳房を乳頭から扇状にやや大きく切除する乳房扇状部分切除術と、腫瘍から約2cm離して円形に切除する乳房円状部分切除術があります。
乳房の切除範囲が乳房切除術より小さくなるため、肩の運動障害が軽度ですみ、より早く回復します。センチネルリンパ節生検を行なって腋窩リンパ節郭清が省略できれば、回復は一段と早くなります。
- (1)乳房扇状部分切除術
- 温存術の中では切除する範囲が広い手術です 。
乳がんは乳管内を乳頭方向にはって進行することがあるため、図のように、しこりとその周囲の正常乳腺組織を、乳頭を中心にして扇型に切除し、必要に応じてセンチネルリンパ節生検あるいは腋窩リンパ節郭清を行う方法です。
乳房温存手術の中では切除する範囲が広いので、比較的しこりが大きい場合でも取り残す可能性が少なくなります。
乳房が小さい場合には、残った乳房に変形を生じるため、いろいろな工夫が必要となります。
残った乳房にがん細胞が取り残された可能性があれば、再手術が必要となることもあります。
- (2)乳房円状部分切除術
- しこりとその周辺を部分的に切除する手術です 。
しこりとその周りの正常乳腺を、1~2cmの安全域を含め部分的に丸く切除し、必要に応じてセンチネルリンパ節生検、あるいは腋窩リンパ節郭清を行う方法です。
切除する範囲が比較的小さいので、乳房が小さい人でも残った乳房の変形が少なくてすみます。しかし、しこりの大きさに比べて乳房が小さい場合には、残った乳房が変形することがあります。がんを残さないようにするためには、術前の画像診断をしっかり行い、少し大き目に切除する必要があります。
腋窩リンパ節について
腋窩のリンパ節を初めから全て切除(郭清)するのではなく、がんが最初に転移すると考えられる一部のリンパ節をまず検査し、がんの転移が認められなかった場合にはそれ以上のリンパ節を切除しない方法です。
しこりが小さく、手術の前の検査で腋のリンパ節へのがんの転移が認められなかったときに行われます。
センチネルリンパ節を探すためには、色素や放射性同位元素を用いて検査を行います。
腋窩のリンパ節を全て取る手術の合併症とされる腕や肩の運動障害、痛み、むくみ(リンパ浮腫)がほとんど認められません。
ただし、センチネルリンパ節にがんの転移巣が発見された場合は、一般的にリンパ節郭清が必要になります。
リンパ節郭清の目的は、
- リンパ節への転移の状況を把握する
- 腋窩リンパ節における乳がんの再発を予防する
の2点です。リンパ節への転移の状況は、術後の薬物療法の選択の為に必要な情報となります。