午前8:30~11:30
午後13:30~16:30
子宮内膜症とは、子宮の内側にある子宮内膜が子宮の内側以外の臓器にもできてしまう病気です。腹膜や卵巣、子宮と直腸のくぼみであるダグラス窩(か)などに発生します。子宮外にできる子宮内膜も、生理と同じように女性ホルモンの影響を受けて増殖と出血を繰り返していきます。しかし、子宮の内側にある子宮内膜のように腟から排出することができないため、その場に血液が溜まり炎症を起こしてしまうのです。
子宮内膜症は、発症する部位によって「腹膜病変」「卵巣子宮内膜症(卵巣チョコレートのう胞)」「深部子宮内膜症(ダグラス窩・深在性子宮内膜症)」「他臓器子宮内膜症」の4つに分けられます。
4つある子宮内膜症のなかでも、深部子宮内膜症は診断・治療が難しい病気です。子宮と直腸のくぼみであるダグラス窩に発症することが多く、ダグラス窩は多くの臓器が隣接している箇所にあるため、画像などの検査で発見しにくいのです。また、ダグラス窩は直腸に穴を開けてしまう危険性が高い箇所にあるため手術を行う場合は高度な技術を要します。
当院では、難易度の高い深部子宮内膜症に対する腹腔鏡下広汎手術を手がけた実績があります。その技術は、世界的に見ても先駆的であり、海外からの講演や手術見学の依頼が多数あります。その卓越した技術により、難症例とされる深部子宮内膜症の手術をも可能にしています。
平成9年度の全国調査では子宮内膜症の診断で治療を受けている女性は約128,000人で、年齢分布としては、30歳代前半にピークがあり、その年代の約150人に1人に相当する数との報告があります。
子宮内膜症の代表的な症状は、生理時に起こる下腹部痛と腰痛、性交痛、排便痛などの様々な痛みです。月経のたびに進行し、症状も徐々にひどくなっていきます。ひどくなると、「痛くて体をまっすぐにしていられない」といった非常につらい痛みがあり、吐き気やめまいを伴うこともあるのです。
子宮内膜症の発症原因ははっきりしていませんが、子宮内膜を含む月経血が卵管からお腹のなかに逆流し、そこにとどまるという説が有力とされています。
また、子宮内膜症を発症する方が増えているのは、晩婚・晩産化など女性のライフスタイルの変化による月経回数の増加が関係していると言われています。生理と同じサイクルで増殖と出血が繰り返されるため、月経回数が増えれば、その分、子宮内膜症は発症・悪化しやすくなります。生涯子どもをもたない選択をする方も増えていることで、月経が中断されることがないのも原因のひとつと考えられているのです。
子宮内膜症の手術療法は「開腹手術」と「腹腔鏡下手術」の2種類。当院では、開腹手術はもとより、あらゆる子宮内膜症の病変に対して腹腔鏡下手術を数多く施行しています。
腹腔鏡下手術とは、腹腔鏡と呼ばれる直径0.5~1cmほどの長い棒状のカメラを用いた手術です。
腹部に0.5~1cmほどの穴を1~4か所開けて、炭酸ガスでお腹を膨らませてから腹腔鏡を挿入し、腹部内部(腹腔)の様子をテレビモニターで確認しながら、鉗子(かんし)と言われる特殊な細い器具を使って手術を行います。
腹腔鏡下手術は開腹を回避することで、痛みが少ない、手術による傷が小さい、早期回復・退院が期待できる、術後の癒着が少ないといった様々なメリットがあります。
腹膜病変 | もっとも基本的な子宮内膜症で、腹膜内や臓器の表面に病変が発生します。大きさは極めて小さく、数ヶ所に散らばっているため、一つひとつ取り除いていく必要があります。 |
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卵巣子宮内膜症 (卵巣チョコレートのう胞) |
卵巣のなかに発生する子宮内膜症です。のう胞の中身だけを摘出し、卵巣を温存する方法や、卵巣を全て摘出する方法があります。 |
深部子宮内膜症 | 子宮と直腸の間にあるダグラス窩(か)と呼ばれる箇所とその周囲に高頻度で発生します。尿管や直腸などへ癒着(本来離れているべき組織同士がくっつくこと)するため、癒着を剥がし(剥離)、内膜症組織を取り出します。癒着を剥がすだけでは根治できない場合には、尿管や腸管の切除と再建を行う必要があります。直腸に穴を開けるリスクがあるため、非常に難易度の高い手術となります。 |
他臓器子宮内膜症 | 直腸、尿管、膀胱など、内膜症は全身どこにでも発生します。病変を取り除き、必要時臓器や組織の再建を行います。 |
深部子宮内膜症は病変へのアプローチが難しく、尿管や直腸などに病変がある場合には、子宮とともに腟や卵巣、卵管などの臓器に加え尿管や直腸なども切除する必要があります。また、尿管や直腸を切除する場合には機能を取り戻すための再建手術になります。豊富な経験や高度な医学知識、腹腔鏡の緻密な操作テクニックが求められるのです。
深部子宮内膜症を患っており、治療方法を迷われている方、できるだけ体に負担の少ない方法で治療を行いたいと考える方は、一度当院にご相談ください。徹底した情報開示を行い、患者さんにとって不安のない治療を目指してきました。難症例の手術にも多くの実績があります。
倉敷成人病センター婦人科は、「婦人科悪性腫瘍の腹腔鏡下手術を確立させたパイオニア」とも言われる安藤正明をはじめ、日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医、日本婦人科腫瘍学会専門医が多数在籍しています。
また、開腹手術よりも傷口が小さいことで患者さんの負担が少なくて済む腹腔鏡下手術を可能な限り提案しており、近年注目を浴びている内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」をいち早く導入し、婦人科の腹腔鏡下手術数では国内でもトップクラスの症例数(2022年実績:1,538例)があります。そのため、全国から多くの医師の見学者が集い、書籍やテレビなどのメディアでも多数取り上げられています。
理事長
婦人科 主任部長
ロボット先端手術センター センター長
安藤 正明