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外科

鼠径ヘルニア

ヘルニアとは

鼠径部ヘルニアは、脚の付け根(鼠径部)の腹壁のすき間や弱くなったところから腸などの内臓がはみ出すようになってしまう病気で、俗に「脱腸」とも呼ばれています。症状は全くないものから鼠径部の膨らみ(膨隆)や違和感、痛みを伴うもの、さらには嵌頓(かんとん = はみ出した腸などをお腹の中に戻せない状態で痛みなどの症状を伴う)や絞扼(こうやく = はみ出した腸などが血行障害を起こしている状態)にいたるものまでさまざまですが、いったんヘルニアの状態になると自然に治ることはなく、治療するには手術が必要となります。当院では鼠径部ヘルニアに対して、腹腔鏡下手術を含む様々な手術で対応しています。

1.鼠径部ヘルニアの種類

ヘルニア門の位置による分類.jpg

脱腸の出口(= ヘルニア門)の位置により、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアに分類されます(図1)。それぞれのヘルニアが併存することもあります。

鼠径部ヘルニア 鼠径ヘルニア 外鼠径ヘルニア 下腹壁動静脈の外側にヘルニア門がある。
内鼠径ヘルニア 下腹壁動静脈の内側にヘルニア門がある。
大腿ヘルニア 鼠径ヘルニアより足側にヘルニア門がある。 高齢、やせ型、出産回数の多い女性に多い。 嵌頓をおこしやすい。

2.鼠径部ヘルニアの症状

鼠径部ヘルニアの症状

鼠径部の膨隆や違和感、痛みなどの症状が出ることが多いですが、全く症状のないこともあります。膨隆はあお向けになると自然になくなったり指などで元に戻せますが、元に戻せないこともあります。急に痛みなどの症状を生じて膨らみを元に戻せなくなる嵌頓(かんとん)の状態になると、はみ出した腸などが血流障害や壊死(えし = 組織が腐ること)をおこす絞扼(こうやく)を伴うことが多くなり、緊急の対応が必要となります(図2)。

3.鼠径部ヘルニアの治療方針

鼠径部ヘルニアは自然に治ることはなく、根治するには手術が必要です。嵌頓している症例は基本的に全例(緊急)手術の適応で、嵌頓していない症例でも痛みや違和感などの症状がある場合は手術の適応です。将来的な嵌頓のリスクを考慮すると、痛みなどを伴わず膨れているだけや無症状の場合でも治療の原則は手術です。嵌頓の発生自体は比較的まれで、50歳以上の方で症状が出現してから3か月以内に起こることが多いといわれています。また、女性の鼠径部ヘルニアの約3割が嵌頓をおこしやすい大腿ヘルニアといわれており、女性の大腿ヘルニアは基本的に手術適応となります。一方、50歳未満の男性で無症状、またはほとんど症状のない方は十分な説明と同意のうえで注意深く経過観察することも可能ですが、経過観察中に症状が出現したり増悪した場合は手術を考慮します。

4.鼠径部ヘルニアの手術

鼠径部ヘルニアの手術では、はみ出したヘルニア嚢を処理した後にヘルニア門を修復します。術式は、鼠径部を3~5㎝切開して直視下に修復する「鼠径部切開法」と、腹腔鏡を用いて小さい創1~3か所で行なう「腹腔鏡下修復術」に分けられます(図3、4)。


鼠径部切開法

腹腔鏡下修復術

ヘルニア門の修復方法には、組織同士を縫い縮めて修復する「組織縫合法」とメッシュ(人工膜)を用いてヘルニア門をふさぐ「メッシュ法」があります(図5)。組織縫合法はメッシュ法と比較して、手術後の疼痛が強く再発のリスクも高いため、近年では行われなくなってきています。ただし、若い方で比較的小さい外鼠径ヘルニアや、腸の壊死などで感染するリスクが高く異物であるメッシュが使用できない場合には組織縫合法を行なうこともあります。鼠径部切開法には組織縫合法とメッシュ法両方の術式がありますが、腹腔鏡下修復術では全てメッシュを用います。


図6組織縫合法とメッシュ


鼠径部切開法の術式とメッシュには様々な種類がありますが、当院では主にメッシュを腹壁の上側に置く「リヒテンシュタイン法」と、腹壁の下側に置く「ダイレクトクーゲル法」を行なっています。リヒテンシュタイン法では、外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアの2つのヘルニア門をふさぐことができます。一方、ダイレクトクーゲル法ではそれらに大腿ヘルニアを加えた、3つの鼠径部ヘルニアのヘルニア門すべてをふさぐことができます(図6)。


図6当院での鼠径部切開法での主な術式とメッシュの位置


腹腔鏡下修復術は鼠径部切開法と比較して手術時間がやや長くなる傾向がありますが、術後疼痛や神経損傷などは軽く、より早い回復や社会復帰が期待できます。ダイレクトクーゲル法と同様に、3つのヘルニア門すべてをふさぐことができます。また、左右両側にヘルニアがある場合は、同じ創で両側とも手術できるので良い適応です。これらのメリットがあるため、最近は腹腔鏡下修復術の件数が増加しています(表1)。当院ではTAPP法と単孔式TEP法の2種類の腹腔鏡下手術を行なっています(図7)。


表1.当院での最近5年間のヘルニア手術件数

単孔式TEP法

図7腹腔鏡下修復術(TAPP法とTEP法)

5.手術後の合併症

水腫(漿液種)
手術部位にしみ出した体液が貯留することです。手術前に膨隆していた部位におこるとあたかもヘルニアが再発したように見えますが、圧迫したりあお向けになっても消失しません。ほとんどが1、2か月以内に自然に吸収されて縮小・消失します。
血腫(後出血)
手術後に出血がおこり手術部位に血液が貯留することです。抗凝固薬や抗血小板薬の使用が誘因となることがあります。動脈の損傷による出血の場合は止血手術が必要となることもあります。
感染
発生リスクは低く、鼠径部切開法に比べると腹腔鏡下修復術ではさらに少ないといわれています。しかし、体にとって異物であるメッシュを用いた手術後に発生した場合には問題となることがあります。たまった膿を出して繰り返し洗浄したり抗菌薬を投与して治療しますが、メッシュに感染が及んだ場合はなかなか治らずメッシュを除去せざるを得ないこともあります。
術後疼痛
手術後間もない時期での、ある程度の創部の痛みは、痛み止めなどでほとんど対処できます。手術後6カ月以上経っても痛みが残ることを慢性疼痛といい、臨床的に問題となることがあります。組織同士を縫い縮めてヘルニア門をふさぐ組織縫合法では、メッシュでヘルニア門をふさぐメッシュ法より痛みや違和感が出やすいといわれています。また、腹腔鏡下手術は鼠径部切開法より痛みが少ない傾向があります。
再発
組織縫合法はメッシュ法と比較して再発、特に長期間経過してからの再発が多いといわれています。メッシュ法と腹腔鏡下修復術では大きな差はありません。再発した場合も初発のヘルニアと同様、手術が唯一の治療法となります。